大泥棒+α TAKE-1深夜。 昼間は明るいその屋敷も、今はしん・・・と静まり返っている。 もっとも、彼の大豪邸には、門にも扉にも、庭園にさえも、幾人もの警備兵達が歩き回っている。 確かに、ここを通り抜けるのは少しキツイかも知れない。・・・そんな事を思いながら、キールは顎に手を当てた。 齢15。 警備の堅い豪邸の一角、それも深夜に、その豊かな葉の茂った木の枝の上に姿を隠すには、些か似合わない年頃だ。 だが本人は全く関係ないのだろう、余裕綽々とばかりに、昼間買った2つ目のサンドイッチに手を伸ばした。 「・・・それで?」 開口一番放たれた言葉に、バーロイニー伯爵は些か面食らった。 しかし、それを億尾にも出さずに落ちついた調子で伯爵は微笑んだ。 「一体、何がです?」 「この報告書よ」 女は束になった紙を、バサッとテーブルの上へ投げ出した。 「どういうつもりなの?」 腕を組んだ女は、明らかに不機嫌の極みのようだ。 「犯人について、何も書かれていないじゃないの!」 伯爵に代わり、従者のログエがその報告書を拾い上げた。 ぱらぱらとめくっていくと、なるほど、確かに膨大な量の割には、犯人像が「やや長髪・若い」としか書かれていない。これでは、怒るのも無理はないというもの。 ちらり、と報告書を書き上げた警部補に視線をやると、申し訳なさそうに微笑んだ。 ログエは溜息をつきたいのを堪え、伯爵にそっと耳打ちした。 伯爵はそれを聞くと、明らかな作り笑いで手を揉んだ。 「いやいや、それは失礼致しました。けれど、われわれにはそれくらいしか分からないのですよ。なにせ、2度とも寝ている間に起こっていますのでね。・・・ああ、その時の警備兵達はさっさと首にしましたよ。いやはや、腕の悪い奴らに金を払うのも勿体無いでしょう・・・。ええ、ですから今回で3回目でして・・・」 「だから、中央からワタクシを呼び寄せた、と・・・」 女はいかにも面倒臭そうにいうと、溜息をついた。 「いったいどんな難事件かと思えば・・・」 「しかし・・・っ」 「もういいわ」 口を開きかけた伯爵に、女はくるりと背を向けた。 「ハーディ」 「は、はいっ」 女にずっと付き従っていた少年が、慌てたように返事をした。 「帰るわよ」 「はいっ、それでは失礼しますっ」 すたすたと歩き出した女に代わり、少年が深く頭を下げ、追いかける。 そのさらに後を警部補が慌ててついていった。勿論、伯爵に会釈をするのを忘れずに。 パタン、と扉が閉まったのを確認して、伯爵は満足そうに笑った。 いい女じゃあないか! 多少気が強いようだが、それくらいなんとでもなるだろう。 この事件が終わったら、金にものをいわせてみるのもいい。 そんなことを考えつつ、伯爵はログエに手を振った。 「レイヴィア・マーケンズ、24歳。両親はなく、孤児院で育っています。中央では数々の難事件を解決した、腕利きの刑事のようです」 それが合図だったのか、ログエは迷うことなく口を開いた。 それを聞きながら、伯爵はワインを口に含んだ。 ・・・久し振りに、女を落としてみるのも悪くない・・・。 |